かつて風読みの塔と呼ばれた場所
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かつて「風読みの塔」と呼ばれた場所は、今では誰も名を口にしない丘の上に立っている。
塔へ続く道はいつのまにか地図から消え、草は踏まれた記憶を失い、側面の梯子や風車の羽は朽ちて堕ちた。
それでも風だけは、そこを避けては通らない。
谷を渡ってきた風も、森の奥で冷えた風も、必ず塔の風車を振るわせる。
そして息を詰まらせたように止まり、来たときよりも少し重い音を連れて出ていく。
耳を澄ませば、塔は鳴っている。
風がない夜でも、鳴っている。
塔が鳴る夜、丘の下の家々では眠りの浅い者の夢に読めない文字のような音が降りてくる。
眠りかけた意識の縁に、意味の形をしていない言葉が触れる。
呼ばれた気がして目を開けると、部屋の空気だけが、どこか遠い高さから落ちてきたみたいに冷えている。
塔は、いまも風を読んでいるのではない。
風に読ませているのだ。
ただ風だけが、まだ仕事をやめていない。
画像はできる限り実物に近い状態で撮影していますが、実際の色合いはご覧いただく環境により異なる場合があります。ご了承いただけますようお願い申し上げます。

















